歯は、最高で20ミクロンのものを感知できます。20ミクロンといえば、1ミリの5分の1です。私たちはごはんに砂粒が一つ入っていても、味噌汁に髪の毛が1本入っていても、すぐに気づきます。歯というのは、それほど鋭敏な器官なのです。
ですから、歯がほんの少し削られてしまっただけでも、噛み合わせは変化します。そしてその変化が、全身に悪影響を及ぼすことがある。大袈裟ではなく、たった1本の歯が人生を狂わせる事もあるのです。
近年、噛み合わせについての知識がさまざまなメディアで取り上げられ、その認知度は一昔前に比べて飛躍的に高くなっています。しかし一方で、噛み合わせを始めとする顎口腔系のストレスが全身症状につながることを、まったく知らない人もたくさんいます。
顎口腔系のストレスが原因で体がおかしくなったとき、たいていの人たちは内科や外科に行きます。胃が痛くなれば胃腸科へ、腰が痛くなれば整形外科へ行くわけです。
しかし、こうした体調の変化が顎口腔系のストレスによるものなら、顎口腔系のストレスからアプローチしないかぎりは根本的な解決にはなりません。そればかりか、正しくない投薬や手術によって、症状が重くなってしまう可能性もあります。
もちろん、体調が変化したからといって、その原因のすべてを顎口腔系のストレスに求めるのは誤りです。顎口腔系のストレスを改善しても、ほかの症状が治らないこともあります。ただ、なかなか原因が特定できない病気に悩んでいるときは、一度は顎口腔系を疑ってみる価値はあります。とりわけ、歯の治療をしたあとは要注意です。
父の場合、咀嚼システムは六五年という長い時間をかけて作られたものでした。これを破壊したのが、合わない入れ歯です。人間には適応能力がありますから、噛み合わせの変化にも、適応していくことができます。合わない入れ歯でも、ある程度は慣れることができる。しかし、適応には限度があります。
合わない入れ歯によって、父の咀嚼システムは少しずつ狂っていきした。やがて適応能力が限界を超え、症状が出てきた。ですから、歯茎の腫れをとり、新しい入れ歯を作っても、根本的な解決にはなりません。狂ってしまった咀嚼システムを、正常なレベルに戻さなければ、また同じようなトラブルが起きる可能性があります。
だからバランスよく噛む訓練をしたのですが、時間をかけて治療を続けていったところ、抜けてしまった毛が徐々に生えてきたのです。